進化した人工知能と葛藤を描いた傑作SF「AIの遺電子」が面白い あらすじ、感想、見どころを紹介

舞台は人間と同じレベルの知性・感情を持つヒューマノイドが人口の1割に達した近未来の日本。マンガAIの遺電子はヒューマノイドを治療する専門医の須堂光が、さまざまな悩みを抱えたヒューマノイドや人間と向き合っていくオムニバスストーリーです。山田胡瓜先生による本作品は、2017年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞し、高い評価を得ています。2023年7月よりマッドハウスによりアニメ化も決定しています。

現在は続編や前日譚も連載中で、ますます注目されています。続編のAIの遺電子 RED QUEENでは、須堂が記者として内戦中のロビジアに渡り、母親のコピー人格を追って北ロビジアへ潜入します。前日譚のAIの遺電子 Blue Ageでは、須堂が研修医として勤務していた頃のエピソードが描かれます。

目次

ヒトの心を持つAI「ヒューマノイド」

AIの革命的進歩により高度に知的なAIを道具として扱うことになった世界。人類はヒトの心を持つAIの仕様を策定し「ヒューマノイド」として区別し人権を与えるに至りました。物語の中でもヒューマノイドは人々と同じように生活しています。ヒューマノイドを治療する専門医の主人公須堂光は、様々な問題を抱えたヒューマノイドたちと向き合います。

第一話で須堂は、ある男から秘密裏に依頼を受けます。バックアップを自ら行ったことにより、彼のヒューマノイドの妻はウイルスに感染してしまっていました。このままでは半月もすればただの抜け殻になってしまいます。そこで男はひとつの決断を強いられます、一週間前のバックアップを使い「治療」を行うか否か。

成功すれば一週間分の記憶が消えるだけ、「バックアップ」を使えばまた元のとおり家族と生活できる。男は迷う必要はありません。しかし、娘はある疑問を持ちます「ママは本当にいまのままと一緒なの?」

人格も簡単にコピーできるヒューマノイドだからこそ、そこには通常では考えられないような倫理的問題が立ちはだかります。この未来のテクノロジーと葛藤にフォーカスを当てたSF作品が「AIの遺電子」なのです。
「AIの遺電子 Blue Age」では、須藤は来院した夫婦に、今おなかに宿っている赤ん坊は無脳症だと診断します。須藤はヒューマノイドの電脳を移植することが可能だと告げるが……果たして電脳を移植された子供は本当に我が子なのか。

遠すぎない未来に来るかもしれない「シンギュラリティ」

公式サイトより画像引用

シンギュラリティとは、人工知能が人間の認知能力を超越し、社会や暮らしに与える変化を表す概念です。シンギュラリティが訪れると、人類は自らが生み出した技術の進展に見合った対応を取り、未来を予測することが難しくなると予想されます。感情を持ったヒューマノイドは「人間」と何が違うのか。突き詰めれば人間が作ったプログラムにすぎないのは確かです。しかし、知能が人間と同等かそれ以上となった場合、もはや魂があるかないかはその人の倫理感に委ねられるのかもしれません。

「AIの遺電子」は短編形式で淡々と進みます。使命を持って生まれた「産業AI」に感情移入し、読後に悲しい気持ちになることもしばしば。短編読み切りのため、読みやすく、いろいろと考えさせられます。簡単に体を交換できるヒューマノイドを通して、人間の命は儚く尊いものと気づかせてくれる、そんな傑作です。

「AIの遺電子」は2023年7月よりマッドハウスによりアニメ化されます。まさにChatGPTなどAIの革新が騒がれ始めたこの年にベストなタイミングなのではないでしょうか。独自の切り口を持った近未来SFがどのように生まれ変わるのか今から楽しみです。

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