深淵に飲み込まれていく少年少女たちを描いたスーサイドラブストーリー『少年のアビス』感想

『少年のアビス』はボーイ・ミーツ・ガールといえるかもしれない。しかし少年少女たちの淡い青春物語を期待して読むと痛い目に合うだろう。そこには閉塞感に満ちた世界に差し込む一筋の光に救いを求める、そんな陰鬱とした世界が広がっていた。

目次

代り映えの無い日常に突然現れた”推し”アイドル。運命の歯車が動き出す──。 あらすじ紹介

主人公の黒瀬令児は何もない地方の町の男子高校生だ。家族は看護助手の母、引きこもりの兄、認知症の祖母と、彼を取り巻く環境は過酷だ。母親を楽にさせるために大学には進学せず町からは出ることはないだろう、そんな漠然とした感情をもったまま代わり映えのない日々を過ごしていた。ある日令児はコンビニにてホームレスらしき男に廃棄の弁当を渡ししている少女と出会う。どこかで見た面影だった。

彼女の名前は「青江ナギ」。なんとレイジが憧れていたアイドルグループ「アクリル」のメンバー青江ナギ、その人だったのだ。その日の夜、ナギに町を案内している最中に小説の舞台となった自殺の名所「情死ヶ淵」の話題に触れる。心中こそが一番いい幸せな死に方というナギはレイジに向かってこう言った「私達も心中しようか」と。閉塞して止まっていた令児の世界がいま動き出したのだった──。

令児の”深淵(アビス)”はまるで蟻地獄

怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。

 

フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』

ニーチェの有名な言葉だが、まさに令児の深淵を覗いた者たちは自信の深淵に気づき”闇落ち”していく。令児は全く悪気はないのだが……無意識のうちに地雷を踏み抜いていくところが面白い。

そもそも主人公はなぜここまでモテるのだろうか、と考えてみたがそもそも登場人物たちは令児に惚れているわけではないことに気づく。それぞれの”深淵”から逃れるための都合の良い存在でしかない。

母親ですら令児のことを本当に愛していなかった。でもそれは令児のナギへの感情も同じで、ナギは令児にとってアイドル(偶像)だったが実際に会って体を重ね、偶像とは全く違った存在だと気づく。

狂気の沙汰ほど面白い!?登場キャラの変貌っぷりが衝撃

特に「柴ちゃん先生」こと柴沢 由里の変貌っぷりがおもしろい。令児の通う高校の教師であった由里はごく真面目で明るい教師だった。しかしナギと心中しようとしていた令児を見つけてしまったことにより彼女の人生は激変する。

「オレに先生みたいな幸せな将来は来ないよ」令児の一言で自身が幸せではないことに初めて気づいたのだった。とにかく令児は無意識のうちに関わった人間たちを深淵に引きずり込んでいく。「黒瀬くんが死のうとするから覗いちゃったじゃない。私も私の真っ暗なところ」令児自身もナギの被害者ではあるが。由里の狂気は元々内包されていたものだ。幼い頃から卓球選手のエリートとして育てられた由里はまさに優等生で、恋愛もしてこなかった。無意識の内に育ったフラストレーションが令児との出会いにより爆発してしまう。

教師として生徒を正す、それは建前でしかなくそこにあるのは女としての恋愛感情が入り混じった情欲。自分にとって全てを肯定的に捉え続ける柴ちゃん先生の目は狂気に満ちている。それぞれの主要キャラを深堀りし続けられる点もおもしろい。それはある意味読者も”深淵”を覗き続けているといえるかもしれない──。

青江 ナギは令児の救世主となるのか

令児と関わり心中寸前までいったのに、また東京に戻ったナギ。似非森に言われたとはいえ、アリ地獄を振りほどき東京に戻ったナギこそが令児にとってキーパーソンになるのかもしれない。闇落ちの理由を令児に探すのではなく、“令児だからこそ言えた”と言ったように令児自身に目を向けているのはナギだけだからだ。

今後は願わくば、死=救済として捉えている彼女たちの考えが180度変わっていくそんなドラマを期待したい。

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